FC2ブログ
私の身の回りの出来事を、エッセイとして掲載。「愛」を基点とした「ぬくみ」のあるものを書き込んでいきます。

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

シナリオ「あめんぼの唄」2
あぜ道 -歩いている二人。
蜩(ひぐらし)の声。
歩きつつ、網を直そうとしているノブ。
アキラ「(ふてくさって)だから、やめろって言ったろォ」
ノブ 「(作業しつつ)弱えなァ、このアミ」
アキラ「(完全にふてくさっている)」
ノブ 「アイツ、本当は四年らしいぜ」
アキラ「(面倒くさそうに)だれ」
ノブ 「ヒョウタンだよ。スズキ」
アキラ「どうして」
ノブ 「病気で一年おくれたんだと。うちの母ちゃんが言ってた」
アキラ「どうしてそんなこと、お前んちの母ちゃんが知ってんだよ」
ノブ 「そりゃ、お前-うちの母ちゃん、PTAだもん」
アキラ「何だよ、それ」
ノブ 「あれ、知らないのお前。イヤですねェ。PTAッたらお前-」
アキラ「何よ」
ノブ 「-よくわかんね」
  -蜩。(ひぐらし)
ノブ 「とにかくアレ、うちの母ちゃん、先生によばれたんだ」
アキラ「何で」
ノブ、手を止めて得意げに鼻をこする。
ノブ 「前に図工ン時オレ船の絵書いたろ。へへ、あれ今度、テンランカイに
    かざられんだ」
アキラ「----」
ノブ 「夏休みの前に、ジュギョウサンカンやったろ。へへ、あの後、母ちゃ    ん先生に呼ばれてさ、ほめられたんだ」
アキラ「フウン」
ノブ 「マ、オレとしちゃたいした絵じゃないんだけど」
アキラ「(口の中で)チェッ、エッラそうにィ。勉強はダメなくせに」
ノブ 「(見る)ン?」
アキラ「なんでもない」
ノブ 「そん時、先生に聞いたんだと。ヒョウタンのこと」
アキラ「ヘエ」
ノブ 「アイツ、体育ん時、ずっと見学してるだろ」
アキラ「うん」
ノブ 「シンゾウが悪いんだってよ」
アキラ「ヘエ」
ノブ 「運動しちゃいけねえんだと」
アキラ「----」

イメージ・ヒョウタン
      -体育。皆が跳び箱をとんでいる後ろで、ポツンと椅子に座って
       いる。
ノブの声「勉強はできるけどな」
アキラ「----」

イメージ・教室
      -黒板に書かれた数式をスラスラ解いているヒョウタン。
ノブの声「今晩、来るらしいぜ」
アキラ 「え(見る)」
ノブ  「ヒロキくんが呼んだんだ」
アキラ 「---」
ノブ  「ヒョウタンが来てお前が来なかったりしたらヤバイゾォ。よけい目     立っちまうぞ、お前」
アキラ 「---」

-蜩。(ひぐらし)
-二人、そろそろ分かれ道にかかっている。

陽 -そろそろ傾こうとしている。
ノブ 「(あっさり)ダメだな。このアミ。なってねえや」
アキラ「(慌てて)オイ-」
ノブ 「今度、もっとがんじょうなの買えや」
  ―網をグイッと突き出す。
アキラ「ア、ナ、何-」
ノブ、もう走り出している。
アキラ「(叫ぶ)どうすんだよ、これ」
ノブ 「(遠くから)七時だぞォ、おくれんなよォ-」
アキラ「(ため息)」

物置―アキラ、キョロキョロと周りを見回し、そっと戸を開ける。
一番奥に手を突っ込み、壊れた網をしまう。
アキラの声「その晩は夏祭りだった―」

玄関
アキラ「ただいま―」
―雑巾で足を拭く。
―テレビの笑い声が襖の向こうから漏れている。
アキラの声「ぼくは行きたくなかった―」
アキラ、襖を開ける。

部屋―妹のユキエがテレビを見ている。
ユキエ「ア、お兄ちゃん、おかえんなさい」
アキラ「お母ちゃんたちは」
ユキエ「サイトウさんち。すぐかえるって」
アキラ「ふうん」
ユキエ「アッ、帰ったらおまつりつれてってくれるって。行くでしょ、お兄ち    ゃんも」
アキラ「―ウン」
ユキエ「(笑って)ユキエ、ビーズ玉かってもらうんだ」
アキラ「---」
ユキエ「お兄ちゃんにも、つくってあげる」
アキラ「なに」
ユキエ「こーんな長いくびかざり」
アキラ「バーカ、いらねえよ。オレは、そんなもん」
ユキエ、ふくれてテレビに目を戻す。
アキラの声「お祭りは大好きだ。食いたいもんはたくさんあるし―」

イメージ
  ―アセチレンの灯りの下、吊り下がっているワタアメ。
   お好み焼きが新聞紙に包まれる。
   とうもろこし。砂糖醤油が塗られる。
   イか焼きの屋台の煙。

アキラ、ゴクンと唾を飲む。
ユキエ、テレビを見て笑っている。
アキラの声「―けど、ヒロキくんたちと行くのは」
柱時計
   ―六時を回っている。
アキラ、立ち上がり、隣の勉強机へ。
机―豚の貯金箱。
アキラ、振ってみる。
底ぶたを開け、お金を取り出す。―五十円玉が一枚と、十円玉五枚。机に並べてみる。
アキラの声「ヒロキくんはクラスの大将で、けんかが強く、勉強はできないけ      ど。逆らったり、裏切るやつには―そりゃあ考えられないくらい
      のザンコクなホウフクを―」

アキラ
  イメージ(一瞬)
―パンツを脱がされたタケ。
アキラの声「つまり、今年のお祭りのメンバーは―ノブをのぞいて、ヒロキく      んと―その取り巻きで、ボクとはちがうジンシュで―ボクはかれ      らほどイジワルでもないので―」
アキラ「(ため息)行っても楽しくねえよなァ―」
   ―机に突っ伏す。

イメージ(一瞬)
    ―泣きながら股間を抑えているタケ。
アキラ。
 イメージ(一瞬)
―タケを見下ろして笑っている顔、顔、顔。
アキラ。
 イメージ(一瞬)
―タケの顔がなぜか自分に変わっている。

アキラ、ガバッと起きる。
ユキエの前を通り、玄関へ。

柱時計―六時半を回っている。
(以下、続く)

スポンサーサイト

シナリオ「あめんぼの唄」
-少年の頃。
「ひろっぱ」と呼ばれた空き地に古い工場の建物が残されており、僕らはそこでゴムまりで野球をしたり、缶ケリを工場の煙突の影が長く伸び、鬼が泣いて帰ってしまうまで終日(ひねもす)格好の遊び場にしていた。
 夏は特に陽が長く、強い西日の中を影を引きながら時を忘れていた。
 ある日、僕らはその工場の一角に、汚いマントを羽織った男が住んでいることを知った。
いつも頭陀袋(ずだぶくろ)を引きずるその男の口元は、筋肉が弛んだ様に笑っており、子供の邪気の無い嫌悪感は、彼に石を投げつけながら嘲笑を浴びせた。
 彼が声の不自由な孤児であった事を知ったのは、彼が川に填って(はまって)
死んだ後だった。
-少年の頃。
僕らは無邪気に人を傷つけ、そしてそれ等は甘酸っぱい記憶と共に、微かな後悔として蘇る事がある。
 「シナリオ」と云う、文学として成立しようとしている形式を通して、拙い作品に「温み(ぬくみ)」の様なものを感じて頂ければ幸いです。

 シナリオ「あめんぼの唄」


 -蝉時雨(せみしぐれ)。

陽射し- 強い光を地面に落としている。

林道-  木漏れ日が風に揺らいでいる。

陽炎-  田畑の緑の上に揺れている。
 -蝉の声、ピタッと止む。その瞬間、
捕虫網-フワッと舞い、クヌギの木肌を抑えようとする。
網の間をくぐって、ジジッと逃げる蝉。
声「キタネエッ、ションベンかけられたッ」

林- 網を持ち、樹を見上げているアキラ(8歳)。
   麦わら帽子をとり、袖でオデコを拭いているノブ(8歳)。
虫かご- トンボが一匹。


林- 歩いてくる二人。
ノブ 「ダメだよ。もっと、こうゆう風に(網をかぶせる仕草)、そっとやんな    くちゃ-」
アキラ「----」
ノブ 「せっかく、いいとこにいたのに-」
アキラ「----」
ノブ 「アレ、ぜったいとれたぜ」
アキラ「----」
ノブ 「(虫かごを覗き込み)まだトンボ一匹かァ」
アキラ「(むっとしている)」
ノブ 「オレだったら-」
アキラ「(むっと)だったら、やってみろよ」
ノブ 「え」
アキラ「お前、やってみろよ」
  - グイッと網を突き出す。
ノブ、ニタァッと笑って、
ノブ 「(高い声で)イイノォ-?」

林- 木立に獲物を求めつつ、歩いている二人。
 - 蝉時雨。
アキラ「(探しつつ)なァ」
ノブ 「(も、上を見たまま)ン」
アキラ「今晩、どうすんだ」
ノブ 「どうするって」
アキラ「お前、行くの。やっぱり」
ノブ 「行くのって、お前だって約束しちゃったろう」
アキラ「----」
ノブ 「行かなかったらお前-」
アキラ「----」
ノブ 「ヤバイゾォ、お前。ヒロキくんが」
アキラ「----」
ノブ 「学校で、ひどいめにあうゾォ-」
アキラ「----」
ノブ 「タケみたくお前、教室でパンツぬがされちゃうぞォ-」
アキラ「タケ-」

イメージ・教室
   - 幾つもの手が、タケをコの字に並べた机の中央に押さえつけてい     る。
    ニヤニヤ笑って指示を与えているヒロキ。
    タケ、必死にもがいている。
    ヒロキ、タケの半ズボンに手をかける。
    泣きながら抵抗するタケ。
    取り巻き連の笑い。
    ヒロキ、パンツとともに一気に引っぺがす。
    泣きながら股間を抑えているタケ。
    タケを取り囲んでいる幾つもの笑い。
   -  蝉時雨。
現実
 -アキラ。ゴクンと唾を飲む。
アキラ「(口の中で)-イキジゴクだ!」
ノブ 「来いよ。オレ、ゆうべ父ちゃんに(指を丸めて)へへ、たくさんもらっ    たンだ」
アキラ「----」
ノブ 「少しくらいおごって-ア(口に指をあてて)シッ」
   -樹を指差す。
ノブ 「(声を殺して)クマゼミだァ-」

木肌
  -クマゼミ。シャワシャワと鳴いている。
足を忍ばせて近寄る二人。
ピタッと鳴き声がとまる。
ノブ、パッと網をかぶせる。
-一瞬速く、飛び立った。
ノブ「(叫ぶ)アッ、またッ」
  -袖で顔を拭きつつ、
ノブ「(ブツブツ)何で、オレばっか」

畑-蝶々を追いかけている二人。
  なかなか捕まらない。
ノブの声「こないだ、転校してきたやつな。スズキって」

河原-ノブ、今度は魚を捕らえようとしている。
   アイスキャンデーをくわえ、岩に腰掛けているアキラ。
アキラ「オイ、やめろよ。網がダメンなっちゃうよ」
ノブ 「乾かしゃあ平気だって」
 -よどみに狙いをつけ、網をすくい上げる。獲れない。
アキラ「オイ、ほんとにやめろよ。高かったんだぞ、それ」
ノブ 「平気だって-」

魚影-淀に止まっている。
ノブ、ソッと近つき、再び狙いをつける。
ノブの声「それよりよ、アイツ、似てねえか」

魚影。
アキラの声「なに」
魚影。ススッと動く。
合わせて移動するノブ。
ノブの声「(声を殺して)ヒョウタンによッ-」
ノブ、網をたたきつける。水しぶき。
二人「アッ!-」

網- 幾つもの石が入り、その重みで外れてしまっている。
         (続く)




欧米かッ!!
 貧乏家の楽しみ「DVD鑑賞」。
1本「200円」。なけなしのお金を払い、借りて帰る。
割と長い時間をかけて選ぶ。大体パッケージに惹かれる。「マット・デイモン」主演。好きな俳優だ。「オーシャンズ・シリーズ」からますます好きになった。パッケージの裏を見る。「砂漠での極限状態!!究極のサスペンス!!」とのうたい文句。ばっちり惹かれた。結構ドキドキしながら、夜を待つ。
 娘達は寝るのが遅い。
「早く寝ないと、パップクドンがくるぞぉ-」とか、
壁をドンドン、と叩き、
「ほら、トッツイッツィーがきたぁ-」などと、その場で思いつきの「怪物」を演出するのだが、それが思いのほか受けてしまい、つい余分な楽しい時間を過ごしてしまう。
つい十秒ほど前まで、ゲラゲラ笑い転げていた二女のふたば。ふと気づくと、死んだように眠っている。
三女のひなたも、私の「肘」に唇をつけたまま寝息をたてていた。眠くなるといつも、
「チュッチュコー。」と言って、私の肘にチュウを繰り返す。赤ちゃんの時、ミルクを飲む唇そのままの形で、肘に吸いつくのだ。
「たっしゃんのチュッチュコは、かたくて、つめたいの。みーみのチュッチュコは、ブニョブニョしてるの。」
私の「チュッチュコ」が大変お気に入りだ。ああ、愛されている。ありがたいことだ。が深夜、寝ぼけてものすごい勢いで「チュッチュコ」されることがある。経験は無いが、まるで「ナメクジラ」が肘に這い回っているようで、正直とっても辛い。
最後まで起きているのはやはり、長女ちひろである。
「いい加減に寝なさいッ、明日も学校なんだからッ」少々きつく言っても、最近は鼻歌交じりにそれを聞き流す。右から左へ・・云々。
「お前、いい加減にしろよッ!!」しまいに頭をはたかれ、シクシクとタオルケットを被って泣きながら寝つくのだ。
 
 ようやく、「夫婦の時間」だ。
今日は、久しぶりにビールを飲んで、フラフラといい気分である。
DVDをセットする。布団の上に並んで座っている「みーみ」の指にそっと触れてみる。瞬間、バッ!と払われ、振り向くその顔には明らかに「嫌悪」が伺われる。
ヘラヘラと笑いながらもう一度すり寄ると、今度は「グー」で肩のツボを強打
された。
「何、照れてんだよぉ。」ウヘウへと再びすり寄る。マジモードで怒る予感に動きを止めた。

 マット・ディモンが友人と砂漠を歩いている。いつまでたっても、歩いているのだ。のんびりとヒーリング系のBGM。始まってから既に30分以上が経過していた。まぶたが次第に重くなってくる。
「みーみ」も、憮然と画面を見ている。
青い空。白い雲。定点の絵図らに夜が来て、朝焼けが美しく映される。
マットが立ち上がり、再び二人で砂漠を歩き始める。
「-水も持ってないのに」ぽつんと、「みーみ」が言った。
「-うん。変だよな。」
     間。
「なんで、こんなの借りてきたのよ。」画面を見据えたままで彼女が問う。
「-いや、マット・デイモンだったし。」
「あたし、そんな人知らない。」
「ほら、オーシャンズシリーズのさ。」
       間。突然、
DVDのリモコンで早送り始めた。驚いた事に砂漠の美しい風景が昼から夜へと変わる、先刻のとほとんど同じパターンの、まるっきり「環境ビデオ」もどきの展開が続く。
台詞もほとんど無い。あったとしても、良く理解できないやりとりだ。
早送りを続ける。
カラカラに乾いたマットの友人が、砂上に倒れた。
「-ねえ、何だか死んじゃったよ。」
「-うん。ほんとだ。」
結局、マット一人がハイウェイに出、通りかかった車に乗る。
-そして、エンディングテロップが流れる。
      長い間。
「なぁに?これ?」
「-うん。マットだったのにな。」
時計を見ると、深夜の二時を回っていた。

 あのさ、マットよ。出演(で)るべきもんを選んでくれよぉ。
「英語」ってさ、世界の標準語だろ?
 黄色(おうしょく)の「俺ら」にも、平等に解らせてくれよぉ。
今日は、とっても無駄遣いをしました。
(懺悔)


かえるの女王様
 「あしたは、おべんとうつくって、おでかけしようね。」
 娘たちの顔がパッと輝く。
「ホント!?こうえん!?」
「うん。どこでもいいよ。すきなこうえんに、いこうね。」
「うんッ-。ふーたゃんね-」
「ひなはね-」
 華やいだ笑顔が、愛おしい。
「みーみ、おにぎりつくってくれるかな。」
「うん。とってもおいしくつくってくれるよ。」
「みーみ」と云うのは、妻の事である。
メガネをかけた風体が「ケロケロケロッピー」に似ている。

 朝、まぶたに生暖かい風が吹いた。ギョッと目を開けると、ふたばが唇をとがらせて私の顔に息を吹きかけていた。ハッとして枕元の時計を見上げると、既に11時近かった。
「たっしゃん、はやくおでかけしようよ-。こうえん-。」
「あ、うん。ねぼうしちゃった。ごめんね。」
隣で寝ていた、ひなたもガバッと起き上がった。
「そーだッ、こーえんだッ!」
俄かに(にわかに)騒がしくなった狭い寝室の中で、「みーみ」は身じろぎもしない。
恐らく、夕べ何回かトイレに立ったのだろう。器用にもメガネをかけたまま、大いびきをかいている。少し考えたが、恐る恐る、
「-オイ、オイ。」幾度か肩をツンツンしてみた。一瞬、いびきが止まったが、起きる気配はない。今度はホッペをツンツンしてみた。爪が痛かったらしく、目覚めたその顔はムッと「不機嫌」極まりなかった。
「あのね、もう、11時だけど-」
「・・・・・。」
「あのね、そろそろ支度しないと-」
「わぁってるよッ、うっせえなッ!」
「ア、・・・。」(絶句)
 ブリブリと、もの凄い勢いで「お出かけの支度」が始まる。
炊き立てで熱々のゴハンを握るその横顔は、明らかに「憤り(いきどおり)」の様を呈しており、その矛先はもしかしたら自分にあるのではないかと思うと、あまり良くない予感にドキドキしたりするのだ。
 「もうちょっとだからね。」
娘たちに囁く様にそう言う私の様子が気に入らないらしく、
「早く、着替えさせてよッ」詰問口調の声が飛ぶ。
どこかに「お出かけ」する時、わが家ではいつもこんな様子だ。
 別に、「恐妻家」ではない。結構、亭主関白だと思っている。
「あんた、自動で家がきれいになると思ってんでしょッ-」
「靴下に足はないんだから。自分で洗濯機に行ったりしないのよッ」
「家政婦じゃないんだから、いいかげんにしてよねッ」
「おまえおまえって、何様なのよッ」くだらない事でケンカしたあげく、
「お前が悪りぃんだろッ-」
「あのね、子供の前でお前、はないだろ?」
「じゃあ、きさま。」
「それもダメだろ?」
「なら、テメー。」
口では、とってもかないません。
 「みーみ」は私と九つ違いだ。
「俺が、もう社会に出て働いてた時、まだ小学生だったくせによ」そう言うと
「年下には、もっと優しくしろッ」
やっぱり、切り返しも見事です。

 今年の夏は大変厳しかった。ここに来て、夏ばて気味のようで朝起きるのが辛い。
「ふうん。夏ばてねえ-。」せせら笑うようにそう言いながら、
「疲れには、ブタ肉がいいんだって。」
その晩、豚肉のたれ焼きが大皿で食卓に上った。
「ニンニクも、たっぷりすって入れたから。」
つまるところ、「優しい」のである。照れ隠しのためなのか、普段はぶ厚い「意地悪」のヨロイを纏って(まとって)いるのだが、つまるところ「優しい妻」なのだ。

 そんな妻も、後数日で39歳になる。私より4日遅れの誕生日だ。
9月は、どういうわけかいつも「貧しい」月廻りで、多分プレゼントも贈れない。
結婚して11年が過ぎた。先日、ひなたが大事そうに一枚の写真を握り締め、私に見せに来た。私たちの「結婚式」の写真だった。ウエディングケーキに「入刀」の儀式。十数年の歴史が確実に過ぎてきたことを、まだ若かりし二人の風采からも十分にうかがい知れる。「幸せ」そうに笑っている二人。「幸せ」が「お金」や「裕福さ」に裏づけされるものなら、彼女は現在、かなりの「不幸せ」に違いない。しかし、
決して上手く立ち行かない今の様々な「苦労」を、「苦楽」ではなく「苦労」を、本当に「共にして」くれている。
本当に「言葉」にしようがないよ。
ここ何年も、手紙も贈らずに来たから。せめて、

  いつも、ありがとう。
        心から、愛してます。
      おめでとう。
        誕生日、おめでとう。


枕の見た夢
 朝まだ来。寝返りをうち、左腿(ひだりもも)の濡れた感触に驚いて目覚めた。
狭い布団の左側を見、仰向けに大の字に寝ているひなたのパジャマの股間を、おそるおそる触ってみる。
案の定、ぐっしょり濡れていた。おかしいな、夕べ寝る前にトイレに行かせたのにな。
何時のときも、眠りを邪魔されることが一番腹立たしい。右に首をひねると、大きないびきをかいて妻が寝ている。
「オイ、-」声をかけようとしたが止めた。起こした妻がもし、不機嫌だったら。その後の展開。それだけは決して避けたかった。
所在無く、のろのろと身体を起こす。
「ひな、ひな」寝ぼけ眼(まなこ)のひなたを、無理やり立たせてパンツを脱がせる。
布団の濡れた部分をたたみ、しみ込んだ畳をティッシュで拭き、その上にミッキーの柄の、昔買った赤ちゃん用の敷布団をかぶせる。
「たっしゃん、ひな、おしっこもらした?」
事態に気づいたらしいが、いつもの寝起きと同じく笑顔で明るい。
娘たちは私を「お父さん」とは呼ばない。
「うん。そうだね。」
怒っても仕方ないので、淡々と答える。黙々とパンツを穿かせズボンを着替えさせる。
空腹の時やとっても眠たい時。つまり欲求が満たされずにいる時に、人間の本性は出るものだと思う。
私は憶えていないのだが、良く昼寝をしている時、遊んでいる子供たちに、
「うるさいッ!」と怒鳴るらしい。空腹の時はかなり不機嫌な自分を意識したりする。つまるところ私は自分勝手な、それ程善人などではないのだ。
 
 その日のひなたは、様子がおかしかった。私が帰宅すると、
「あのね、ひなね、今日二回もおもらししたんだよ。」と、早々に「ふたば」が報告に来た。
夕食後、テレビを見ているとまた、
「おしっこ、もらした。」と声がした。見るとふすま越しの寝室の、妻のお気に入りの枕の上に座ったまま、ひなたが股間を濡らしていた。
笑顔だった。つぶらな瞳に反省の色はなかった。
「駄目でしょ!何度も!いい加減にしなさいッ」さすがに怒った。
見る見る「への字」に変わる彼女の顔をにらみつけ、
「バカッ!」と叱責を重ねた。
妻のお気に入りの「そばがらの枕」。おしっこがしみ込み捨てるしかなかった。

 その晩、
「ふーちゃんね、みーみにマクラ、かしてあげるの。」添い寝をしている私に、ふたばが話し始めた。
「みーみ」と云うのは妻のことである。
「あのね、マクラはね、ねているときのユメを、たくさんしってるんだよ。」
「え」聞き返すと、
「あのね、マクラのなかにはね、たのしいユメが、たくさんはいってるの。」
「うん。」
「だからね、マクラがなくなっちゃうと、はじめからになっちゃうの。」
「うん。」
「たのしいユメが、はじめからになっちゃうの。」
「うん。」
「ふーちゃんのマクラは、みーみのとおんなじだから。だから、かしてあげる の。」
なんだか、ジンとした。
「ふんわり」と、温かいものに包まれた気がした。
「ふーちゃん。」
「ん?」
「産まれてきてくれて、ありがとうね。たっしゃんのところへ来てくれて、あ りがとうね。」
そう云うと彼女は、虫歯の歯を見せてはにかむ様に笑った。

Copyright © 小ちゃな愛、奏でた。. all rights reserved.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。